古代エジプトの神秘的な魅力と、19世紀ヴィクトリア朝のエレガンスが融合した、それはまさに「異文化交響曲」とも言うべき世界。今回は、そんな魅惑的な時代背景を紐解く一冊、「Victorian Fashion: The Egyptian Influence」をご紹介します。この本は、単なるファッション史の解説を超え、当時の社会状況や芸術潮流、そしてエジプト文化への憧憬を深く探求する学術的な作品です。
エジプト・マニアとヴィクトリア朝の美意識
19世紀後半のヨーロッパでは、「エジプト・マニア」と呼ばれる現象が社会全体に広がっていました。ナポレオンの遠征以降、エジプトの遺跡や美術品がヨーロッパにもたらされ、人々の関心を集めました。特に、古代エジプトの神秘的な神々やピラミッド、ファラオたちの壮大な墓は、人々に強い憧憬を抱かせました。
この「エジプト・マニア」は、ヴィクトリア朝のファッションにも大きな影響を与えました。当時の女性たちは、エジプト風の装飾を取り入れた華やかなドレスを身につけ、「エジプトの女王」を模倣するような流行を生み出しました。
「Victorian Fashion: The Egyptian Influence」で読み解くエジプト風ファッション
本書は、豊富なイラストと写真資料を駆使し、当時のエジプト風ファッションを詳細に分析しています。
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古代エジプトのモチーフ: スフィンクス、オベリスク、ヒエログリフなどのモチーフが、ドレスやアクセサリーに取り入れられていました。これらのモチーフは、当時のヨーロッパの人々が抱いていた「エジプトの神秘」を表現する象徴として機能していました。
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素材と色使い: シルクやサテンといった豪華な素材を用い、深い青、金色、赤色など、エジプトの砂漠や夕日を思わせる鮮やかな色彩が用いられました。
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シルエットとデザイン: エジプト風の装飾を取り入れた、流れるようなラインや幾何学模様のデザインが特徴的でした。また、ヘッドドレスやネックレスといったアクセサリーも、エジプトの伝統的なデザインを参考に作られていました。
本書で紹介されるファッションの例
ファッションアイテム | 説明 |
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「Cleopatra Gown」 | 古代エジプトの女王クレオパトラをイメージした、豪華なロングドレス。金色や青色のシルクを使用し、スフィンクスのモチーフやヒエログリフが刺繍されています。 |
「Egyptian Revival Jewelry」 | オベリスクやスカラベなどのモチーフを用いたネックレス、ブレスレット、リングなど。宝石をふんだんに使い、エジプトの神秘的な雰囲気を表現しています。 |
「“Oriental” Style Shawls" | エジプト風の柄が織られたシルクのショール。頭や肩に巻いて着用し、エキゾチックな雰囲気を演出しました。 |
ファッション史研究者としての視点
本書は、単なるファッション雑誌とは異なり、当時の社会状況や文化背景についても深く掘り下げています。例えば、エジプト風ファッションがなぜ流行したのか、当時の女性たちがどのような思いでエジプト風の衣装を身につけたのか、といった点が詳細に解説されています。
また、本書では、エジプト風ファッションの影響を受けた美術作品や建築物なども紹介されており、当時の「エジプト・マニア」の広がりを実感することができます。
読み終えた後の余韻
「Victorian Fashion: The Egyptian Influence」を読み終えると、19世紀ヴィクトリア朝の社会にタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。当時の女性たちが、エジプトの神秘的な魅力にどのように心を奪われ、それをファッションを通して表現しようとしたのか、その情熱と創造性を肌で感じることができるでしょう。
本書は、ファッション史に興味のある方だけでなく、古代エジプト文化やヴィクトリア朝社会にも興味がある方にぜひおすすめしたい一冊です。